5月28日(木)、高校1年生を対象に、SSH活動の一環として、統合科学講演会を実施しました。全4回の統合科学シリーズの第2回として行われた今回の講演会は、奈良県立大学から尾久土 正己学長先生をお招きして、文理融合やアストロツーリズムについてをテーマにご講演いただきました。
尾久土先生が実際に行った施策を基に、複雑化する社会の中で分離融合がいかに重要かを具体的に知ることができ、生徒たちの将来にもきっと大きな影響を与えてくれるとても素晴らしい講演会でした。
お越しいただきました尾久土 正己学長先生、この度は本当にありがとうございました。
今までは、だいたいの仕事はどうすれば儲かるのかがほとんど決まっているようなものでした。ですが、今は絶えず起こる国際紛争、気候変動や自然災害、またAIの急速な発展などにより、予測不能な時代になりつつあります。誰も経験したことのない時代、1年後どうなっているのかわからない時代では、決まったレールに乗るためだけの勉強をして職に就くという生き方が難しくなっていきます。
海外、特に欧米では文系・理系は分かれていません。例えば医者になるとしても大学では全ての分野を学び、その後大学院にあたるメディカルスクールで医学を専門的に学びます。ところが日本では、いわゆるコスパを大事にするため、早いうちから自分の得意なことに絞って勉強をします。その結果のひとつの例としては、日本のスマホより外国の製品の方がシェアが広くなっていることが挙げられます。日本でのものづくりは理系の中でも工業に強い人が作り、アメリカでは全てに通じている人が携わることになります。さらにアメリカでは心理学者や哲学者も雇うため、そういった面でも製品に差が出てしまいます。
こういった状況を受けて文部科学省は今、文系の人も数学のような理系科目を、理系の人も哲学のような文系科目をやりましょうと言い始めています。苦手なことから目をそらさず、しっかり勉強する時代なのです。日本の大学も変わりつつあり、理系や文系の境目が曖昧な学部が増えてきています。過去に私(尾久土先生)が先生をしていた大学の観光学部では、理系の先生が3分の1を占めていました。
進路が明確に決まっている、なりたい職業が決まっていて国家資格が必要、みたいな生徒は専門的な学部を目指さなくてはならないです。ただ、よくわからないけど色々なことに興味があるという人は、奈良県立大学のように文理融合を掲げる大学に通うこともできます。高校の段階で自分のやりたいことが絞りきれなかった人は、そういった選択肢もあるということを覚えておいてください。文系・理系の括りなく幅広く学びを進める中で、自分のやりたいことを見つけ、専門的な大学院を目指すのもひとつの道です。
私の元々の専門は天文学です。高校の教師として6年間勤め、その後天文台でも働いていました。その頃、和歌山大学では観光学部を作るために先生を集めており、当時の学長先生からうちに来ないかと言われました。「私は宇宙人ですよ?」というと「宇宙も観光資源ちゃうんか」と言われ、観光学部に入れてもらうことになりました。行ってみると、経済学や社会学の人がほとんどで、天文学はひとりだけでした。ですが最近、大金持ちは宇宙旅行に行ったり、また星空観光についても世界でとても広がっていて、天文学と観光学を混ぜた研究をやり始めるいいタイミングでした。
観光とは、「非日常な体験をするために出かける行為」とイギリスの社会学者ジョン・アーリは言いました。旅行と観光は違います。ただ出かけるだけのことを旅行と言い、その旅行に加えて普段できない体験をすることを観光と言うのです。そして私は「宇宙以上の非日常はあるのか?」の考えに行き着き、宇宙は究極の観光資源だと気付きました。その中でも今一番注目されているのは、持続可能な観光としてのアストロツーリズムです。
元々、星空は人々にとって見えて当たり前のものでした。ところが、明るい街でみんなが暮らすようになってからは、星が見えなくなってしまいました。2007年頃から研究されるようになったアストロツーリズムでは、『ダークスカイ』というキーワードにとても注目が集まっており、星が綺麗に見える場所を保護区として認定し、世界遺産のように守りつつ、観光客もいっぱい集まるようにしようとする活動が世界的にブームになっています。
『光害』というものがあります。これは地面を照らすための屋外の照明が上空方向へも光を漏らしてしまい、空を明るく照らし、星を見えなくしてしまう公害のことを言います。例えば、見下ろしたときに美しい夜景が見える六甲山のようなスポットがあるなら、上方向の光も観光資源になり得るかもしれません。そういった場所がないなら、ただ星空を見えなくしてしまっているだけです。光害の対策は、屋外灯に傘のような蓋を取り付け、上方向の無駄な光だけを防止することで行います。これによって上に漏れていた分の光も地面を照らすようになり、省エネルギーにも繋がります。
2019年、与論島の方が私のところへやってきて、何か一緒にできませんかね、と話をしてくれました。「うちには星空はあるんですが…」と私に言うものですから、「私は元々星が専門なんです」と握手し、観光についてお手伝いすることになりました。与論島には美しい珊瑚礁の海があり、既に夏の間は観光客も来てくれていますが、星も観光資源になると年中来てくれるようになると考えました。
持続可能な観光に必要なキーワードとして『トリプルボトムライン』というものがあります。『環境』・『社会文化』・『経済』、この3つをバランス良く開発しないと、持続できなくなってしまいます。環境だけを大事にすると、光を使ってはいけなかったり、エネルギーも極力使わないようにしなくてはならず、経済活動ができません。逆にお金儲けばかりを考えてしまうと環境に悪影響になってしまいます。また住民のことばかり考えていると、観光客にとって面白い場所ではなくなってしまう。この3つは社会の中でぶつかりあってしまうものです。これらに上手に折り合いをつけながら一緒に開発していくのが、持続可能な観光のやり方です。
まず与論島で着手したのは、住民達がお金を儲けられるようにすることでした。そこで、星のソムリエという制度を利用することにしました。私はその先生として教えることのできる資格を持っていたので、星のソムリエの講座を何回も開催しました。すると、人口5000人の街に100人ものソムリエが誕生しました。これにより、住民が各々のツアーを開き、自分たちで稼ぎを得ることができるようになりました。
次に光害対策として、上方向の光を遮断するタイプの防犯灯に交換しました。すると防犯灯の近くでも綺麗な星空が見えるようになってきて、令和3年の環境省の観測会では日本一暗い街との記録も出ました。夜、ビニールハウス栽培をしている場所だけが極端に明るいこともわかりましたが、それでもダークスカイの規準については余裕を持ってクリアしていました。
そして与論島には、星の名前や物語、歌などの独自の文化を持っており、けれども口伝えであったため忘れられようとしていました。それらを全て聴き、メモを取り、『ヨロン島の星空』というガイドブックを完成させました。与論島の星のソムリエたちはこのガイドブックもマスターしており、星空の紹介の際には星に関する歌を歌ってくれたり、また与論島独自の星の呼び方や物語を教えてくれたりします。
これらの取り組みにより、2023年には世界の持続可能な観光地のベスト100にも選ばれました。こういったことができたのは、文系から理系までの分野の学びを総動員したからでした。ですので皆さんにも文理融合に対して興味を持ってほしいなと思います。