5月20日(水)、SSH活動の一環として、高校1年生を対象に統合科学講演会を実施しました。全4回の統合科学シリーズの第1回として行われた今回の講演会は、株式会社井上天極堂の川本様にお越しいただき、吉野本葛についてとても詳しく教えていただきました。井上天極堂様と青翔は毎年交流させていただいており、探究活動の中で『葛青茶』や、『葛の葉から単離培養した酵母で作る米粉パン』の研究にも深く関わってくださっています。きっと今回の講演会から、探究活動のヒントを得られたことでしょう。
この度お越しいただきました株式会社井上天極堂の川本様、本当にありがとうございました。
元々、御所の農家さんは冬に山に入り、副業として葛の根を採っていました。現在ではそういった『堀り子』さんはとても少なくなってしまいました。御所市在住で定年退職された堀り子さんが、役に立つならとグループを作り、葛の根を掘る活動をしてくれていましたが、その方は大変ご高齢になられたため、堀り子を引退してしまいました。それにより御所市の掘り子さんはひとりも居なくなってしまったので、これはどうにかしなくてはと思い、私(川本様)は昨年から掘り子を始めました。井上天極堂で働きながら、副業として冬場の土日には山に入り葛の根を掘っています。根を採るには私がすっぽり入ってしまうくらい深く地面を掘り起こさなくてはならず、大変な重労働です。こういった事情もあり、掘り子になる人がおらず、吉野本葛の原料を手に入れることは難しいのです。
本日は試食を用意しました。どちらかが吉野本葛、もうひとつがジャガイモからできた片栗粉です。大人のイベントで同じ試食をしたとき、ちょうど半々くらいにわかれました。普段から食べていないものを食べ比べるのはとても難しいことですので、正解、不正解については気にしなくても大丈夫です。見分けるポイントとしては、吉野本葛は、よくよく味わえばさわやかで独特な味がします。片栗粉はジャガイモの香りがします。また、吉野本葛は身体に良い成分をできる限り残す精製方法を取るため、灰色や茶色に濁っています。それに比べて大量生産された片栗粉は透明度が高いです。
葛は1300年以上も前から日本に自生する植物です。そう考えられているのは日本人が文字を書き始めたのが1300年前で、その頃の記録には既に葛が存在したことが記載されているからであり、それよりずっと昔から存在していたと私は考えています。葛は葛根湯、つまり薬の主原料としてよく使われてきました。奈良や京都に都があったとき、葛の花や根が税として天皇に納められていたとも記録に残っています。様々な絵巻物にも夏の草として描かれており、貴族にとっても庶民にとっても、身近な植物であったことがわかります。また家紋にもデザインとして使われていました。江戸時代には葛の作り方や生えている場所、利用方法などを記した本が出版され、明治初期には旅行ガイドブックで奈良のお土産として記載されています。
なぜ奈良で葛が有名になったかというと、役行者(えんのぎょうじゃ)という行者さんが奈良で生まれたからと言われています。行者さんが山での修行の際、よく葛を食べていて、それが身体にとてもよかったから広まったそうです。葛の根のデンプンはそのまま食べると毒になったり、苦みやえぐみがあります。奈良では美しい水がよく湧いているので、葛を水にさらして食べやすくしやすかったのも大きな理由です。また、葛に含まれるイソフラボンは骨を丈夫にする効果もあり、修験道の方からも好まれました。それから、吉野の桜を見に来た観光客に広まっていき、奈良といえば葛と言われるようになりました。昨今騒がれている『はしか』ですが江戸時代にも存在し、そのころ配られていた瓦版にも、はしか予防として食べて良い物として葛があげられていました。
吉野本葛の作り方は、まず掘り起こした葛の根を、機械を使い潰すところから始まります。潰すと繊維状になるので、それを水につけて揉み、繊維に絡まっているデンプンを落とします。葛のデンプンの粒子は10マイクロメートルしかないので、布に入れて絞るとデンプンだけがすり抜け、繊維と分かれます。絞ったものを置いておくとデンプンが沈殿します。このままでは薬効成分が多すぎますし、色や匂い、また味も良くないため、米を研ぐように水にさらし一日おき、上水を捨ててまた水にさらします。これを何度も繰り返してデンプンを洗います。この作業は『吉野晒(よしのざらし)』と呼ばれます。この工業化しづらい過程を踏み美しくなった葛を、さらしの布の上である程度水分を取ったら電動のこぎりでブロック状に切り出し、それから32台の巨大な扇風機を使い、約1週間をかけて乾燥させます。その後、味、色、粘り、品数などを調べて箱詰めしてようやく完成です。
吉野本葛を使った食べ物としては『くずきり』や『ごま豆腐』が有名ですが、井上天極堂ではロールケーキやパウンドケーキも作っています。その他にも葛由来の乳酸菌を使ったタブレットや、食後の血糖値を下げる健康茶、また入浴剤、衣服や名刺入れなど、葛は様々な用途に使えます。青翔での探究活動に葛を活かしやすいと思いますし、実際に葛をテーマにした研究をして賞を受賞した先輩方もいます。
吉野本葛に縛られず、葛という植物そのものの活用方法など、皆さんのアイデアがあればどんどん考えていただけたらなと思っています。